2012年7月14日土曜日

第1回Sapientia会研究会

 去る6月30日(土)、第1回Sapientia会研究会が開催されました。日程の決定が直前になったこともあり、文学研究科史学専攻、グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻・地域研究専攻、文学部史学科、それぞれの所属学生合わせて15名と参加者は少数でしたが、それぞれの研究分野を問わない意見の交換が為され、非常に有意義な研究会となりました。 以下に報告の要旨と、質疑応答の様子を紹介します


「日本古代の治水の認識―「治水英雄」創出への過程―」 
  岩井優多(文学研究科史学専攻博士前期課程)

 岩井氏の報告は、日本古代において治水がどう認識されていたかについて、「治水英雄」が創出される過程を中心に考察したものである。その際の重要な問題意識として、「治水英雄」を言説として扱う必要性や、環境史研究の発展、日本古代文化の構築における漢籍の影響が挙げられた。先行研究の整理を踏まえ、四世紀から八世紀後半までを研究対象とし、文献史料だけでなく考古学の資料も参照しながら、国家や僧侶の活動、災害などとの関わりから治水について概観された。
 質疑応答では、言説の持つ多様性をいかに扱うのか、あるいは環境史研究の意義を問う理論的な質問や、史料における治水記事の地域性や漢籍の受容に関する問題、また論文としてどう一貫性を持たせるのかといった全体的な問題など幅広い指摘がなされた。報告者からは、言説の重要性の再確認や気候変動の問題、文献史料と自然科学的データとの整合性について新たに述べられ、報告者の今後の研究の進展を期待させるものとなった。


「過大規模連合の説明モデルに対する批判的考察:マルチ・メソッド・テストを通じて」
  新川匠郎(グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程)

  政権成立に関する理論は、最小勝利の考え方に依拠して作られてきた。だが、これを超える過大規模連合の政権成立も、稀でない。では、なぜ、これが生じるのか。新川氏の報告では、この問いに答える4つの説明モデルを検証して、その限界と今後の展望について考察された。報告の中では、西ヨーロッパ諸国の事例を用いて、更にその中でも新たな事例を加えることで、モデルの確かさを厳しくテストする内容が課された。また検証の手法でも、定量的な分析と定性的な分析を合わせて用いることで、より厳しいテストの内容が課された。
 以上を踏まえて、一方で限界として、過大規模連合の成立する事例を説明するモデルは未だ十分でないとの点が指摘された。他方で展望として、過大規模連合の類型、それを説明する変数の精緻化、そして、その結果と原因をつなぐ複数の因果経路の可能性が指摘された。
 質疑応答では、①事例の在り方、②仮説の構築、③説明モデルの発展という3つの点で議論が行われた。これらの点は、報告で蔑ろになっていた理論と歴史の関係を再認識させるものであり、今後の研究に向けた報告者の問題意識へつながるものであった。


「在日カンボジア人の現在:文化センター兼仏教寺院建設計画をめぐって」
  村田紋菜(グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程)

 村田氏の報告では、難民として第三国に移住した在外カンボジア人の視点から、民主カンプチア政権下の宗教実践断絶と、その後の復興が検討された。神奈川県「在日カンボジア人コミュニティ」の文化センター兼仏教寺院建設計画を取り上げ、彼らにとっての上座仏教実践は、クメール文化の象徴であり、コミュニティをまとめる意識的装置であると説明された。
 質疑応答では、在外カンボジア人と彼らの宗教を事例として取り上げる意義の説明が求められ、同時に在日カンボジア人が「クメール文化を有する者」たろうとする現象分析を、宗教実践面のみに依拠するのではなく、他の活動・要素も視野に入れる必要があると指摘された。また、所属専攻を超えた参加があったことで、発表内容に関する議論にとどまらず、「地域研究」の強み・特徴・限界についても言及があり、学際的な意見交換となった。

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